column 2013.12.10
 
鹿児島R物件特集

vol.5「いつかは手に入れたい、憧れの島ライフ」

冨ヶ原陽介(鹿児島R不動産/Nuff Craft 株式会社)
 

鹿児島には多くの島があります。鹿児島だから実現可能な、島ライフをご紹介します!

悠々自適な暮らしができる? 島の生活はそんな甘いものではないけれど、やはり憧れますよね。

今回は屋久島ライフを紹介

鹿児島を語るうえで島の話題を外すことはできません。県内には605の島があり、うち32島が有人島です。それぞれに地形の違いや気候の違いがあり、暮らしの様子も異なります。今回はその中から、「屋久島」についてお話しします。

屋久島は、鹿児島県本土の南方約60kmの洋上にある周囲132kmの円形の島。本土と島を結ぶ高速船なら2時間弱で行き来できます。そのほとんどを九州一の高さを誇る宮之浦岳をはじめとする山岳部が占めており、海岸線から山頂にかけて亜熱帯から亜寒帯までの植物が垂直に分布。「山の島」独特の植生が評価され、1993年には日本で初めての世界自然遺産に登録されました。「ひと月に35日雨が降る」と言われるくらいに雨の多い地域ですが、山に蓄えられた豊富な水はいくつもの川となって海へ注がれ、それが排水路の役目を果たしてくれるので意外と自然災害は少ないそうです。近年は県外からの移住者が運営する民宿やカフェが増え、観光が島の産業を支えていることを実感させられます。

店の敷地内で畑をつくっているカフェもありました。

移住希望者が知っておくべき不動産事情

屋久島は昔から島移住を考えている人たちの憧れの場所でした。現在でも多くの移住経験者が暮らしており、別荘もたくさんあります。島は空港を中心に大きく北と南に分けられ、冬でも比較的暖かい南のエリアの方が人気です。しかしながら賃貸物件は数えるほどしかありません。実際空き家はあるのですが、所有者が不動産業者に預けていないため情報として上がってこないのが現状です。一方で売買物件は容易に見つけることができます。例えば九州最高峰の宮之浦岳を借景にした土地や渓流のほとりに建つ一戸建てなど。このように表現するととても美しく聞こえますが、そのスケールがケタ外れ。敷地内に人の背丈よりもはるかに大きな岩が転がっていたり、へそくり程度の金額で広い土地が購入できてしまったり、冗談のような物件ぞろいなのです。ここに島ならではの面白さがあって、まるで宝探しをしている感覚です。また、フェリーターミナルがある宮之浦と安房以外の地域は市街化区域にあてはまらないので自由度の高い建築が可能。これらの地域の土地も狙い目です。

島暮らしのリアル

正直なところ、島の暮らしは同じ鹿児島県に住む僕たちにも想像できません。そこで屋久島に暮らす2組のご夫婦にご協力いただき、島の生活についてうかがいました。

最初にお会いしたNさんは、ご主人はジュエリーデザイナー、奥様は画家というアーティスト夫婦。旅行で訪れた屋久島の海や森に魅了され4年前に大阪府から島の南に位置する中間地区に移り住み、2012年には隣の平内地区にギャラリーもオープンさせました。最大の目的は制作に集中できる環境を手に入れることでした。「もともと森や植物を描いてきました。当時は都会に住んでいたので、想像上の自然を引きずり出して表現していたように思います。でもここには書きたいものが目の前にある。制作も自然から与えられて描く感じに変わりました」(奥様)。島の自然はご主人の作品にも影響を与えています。

Nさんが営むギャラリー。使われなくなった倉庫を自分たちの手で改装しました。すぐ横には清流があり、心地よいせせらぎが聞こえてきます。

Nさんの住まいがある中間(なかま)地区は移住者が少なく、住民同士がまるで家族のように密接につながっています。自然に惹かれて移住すると同時にある程度地元に根差した生活を希望していたおふたり。地域の雰囲気に溶け込むためにコミュニケーションを積極的に取り、今では地区の運動会などのイベントにも参加しているそうです。「中間は濃密な関係を築ける集落。反対にライトな関係でやっていける場所もあります。選べるのがいいですね」(ご主人) 生活にかかるコストは安くなったものの、仕事で大阪に行く際の交通費を入れると以前とはあまり変わらないといいます。それでも費用に対する効果はかなり高く、「だいぶおもろい」とご主人は言います。島暮らしに慣れたことでたまに行く都会の魅力を再確認できたり、観光地ならではの人との出会いがあったり、移住当初は想像していなかった変化も楽しんでいる様子です。

次にお話をうかがったのは、神奈川県から移住したTさん。長男の誕生をきっかけに子育ての環境を見直し、ダイビングのガイドであるご主人の念願でもあった島暮らしを実現させました。拠点探しの条件は、ご主人が好きな海があることでした。沖縄や石垣島も考えたそうですが、どちらも200件以上のダイビングショップがしのぎを削る激戦区であるため「生活していくのは難しい」と判断。「山や森のイメージが強い屋久島では、海の知名度はとても低い。自分で開拓して知られていないものを発見し、広めていくことに面白さを感じました」(ご主人)。沖縄と鹿児島県本土の中央に位置する屋久島の海は、亜熱帯と温帯の魚がせめぎ合う場所。ご主人にとってここは不思議で魅力的な世界なのだとか。休みの日も海に潜り、ダイビングライフを満喫しています。

Tさんの借家は移住して3軒目。1軒目は地道に家々を訪ねて探したそうです。屋久島はどの地域も海と山に挟まれていますが、ここは特に海が近く、きれいな山並みが見える場所です。

Tさんは現在、北エリアのダイビングスポット・一湊(いっそう)の隣にある志戸子地区に一軒家を借り、家族3人で暮らしています。ご主人はダイビングの仕事のかたわら水中カメラマンとしても活動し、グラフィックデザイナーの奥様も仕事を再開させました。都会の分業スタイルとは異なり、島でのデザインの仕事は専門外の作業を要求されることもあるらしく、そのような場面では苦労があるそうです。
「5歳になる長男はとても自由な子どもに育っていて、全然知らないおじいちゃんちにひとりで遊びに行ってお菓子をもらってきたこともありました。地域の人は子どもにとても優しくしてくれます」(奥様)。最大の目的といえる子育ての環境についても、理想と現実がマッチしているように感じられました。

屋久島でどんなライフスタイルを描くか

2組のご夫婦は自分たちのやりたかった生活を実践していました。自然溢れる環境で好きなことができているのはとても羨ましい。また、コミュニティーとの関わりの深さの重要度も見えてきました。エリアによって差はあれど、積極的にコミュニケーションを取り、地域に適応していかなければここでは暮らしていけません。
もう一つ、屋久島移住の大きな壁となるのはとにかく仕事がないこと。島内の平均年収は200~250万円程度です。うまく軌道に乗って理想の暮らしを手に入れる人もいれば、憧れからここに移り住んでも現実の厳しさに挫折して島を出ていく人もいます。しかしながら、手に職を持っていれば可能性はあるように思います。ある程度仕事の自由度がある人なら、1年の半分を本拠地で、もう半分は屋久島で、なんてスタイルも良いかもしれません。

はじめに書いたとおり鹿児島にはまだまだ多くの島があり、それぞれに特徴があります。鹿児島にいるからこそ、島の良さを発信していきたいと思います。

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