2013.10.31 |
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vol.3「山と街」
山と街、それぞれに心ひかれる暮らしの形があります。あなたならどちらを選びますか?
鹿児島県は県土の70%を山が占めています。限られた平坦地のほとんどが市街地にあたり、我々は周辺の小高い山を造成して住宅地を造ってきました。平坦地の土地は平均坪60万円前後で取り引きされていて、住宅地も市街地に近いほど高い。鹿児島県の土地価格は九州でも福岡に次いで高いけれど、平均的な収入はそれに比例するわけではなく、とても見合わないのです。
市街地やその周辺に家を建てる余裕があればそれを選んでもいいけれど、ローンに追われることなく、好きなことにお金をあてられるゆとりのある暮らしの方が僕は好きです。例えば市街地の近くにある武岡と言う住宅地はだいたい坪35万円前後で取り引きされています。そこから車で10分ほど行った、いわゆる「山」に分類される犬迫、松元地区は坪7万から。たった10分でこれほどの差が出るのです。浮いたお金は建築費に回しても良し、趣味に費やしても良し、暮らし方の幅が広がります。
実は僕自身が山を選んだ一人。ここに移る前は、情報が入ってきやすいこと、人とのつながりを持ちやすいことやアクセスの利便性を考えて、市街地のなかの荒田・鴨池地区に事務所を置いていました。しかしながら僕の職種は鹿児島県内全域を対象とするもの。中心部でないといけないわけではない、思い切って街から離れてもいいのではと思い始めたのです。
現在は郊外の山の頂に事務所と伝統工芸品を扱うショップとカフェを構え、おまけの竹林(!?)まで含むと7000坪を所有しています。
さらにここから見事な桜島が見えます。僕にしてみれば家と同様に一世一代の大きな買い物でしたが紹介してもらってから購入を決断するまで30分もかかりませんでした。
なぜこれほどの広さが必要だったかというと、現在手掛けている建築業と鹿児島の魅力の発信について、僕らの考え方を目に見える形でわかりやすく伝えたかったから、そして今まで関わりがあった人達とのコミュニケーションを継続させたかったからです。住宅の仕事というのは家が完成するとお客さんとどうしても疎遠になってしまいます。気軽に事務所に遊びに来る人はなかなかいません。だからカフェもショップを併設したこのような場所を設けることで、仕事が終わった後も一緒に仕事した方々と長くつながっていられるのではと考えたのです。
それと、山の中で働くことへの憧れもありました。子どもの頃は山の中で遊びながら育ち、山に対して無条件に「好き」という気持ちを抱いていたので、その中に身を置いて働くのは理想的な形でした。リラックスしたいときに緑に囲まれながら桜島が見られるというのは、自分にとってこの上ない環境です。自分たちの働く環境を優先させると、どうやってそこに人を呼ぶかという課題が生じますが、幸運なことに今の世の中にはメールもWebも携帯電話もある。仕事をするのに街でなくてはならない、という時代ではないように思います。山で働くのは気持ちがいいですよ。
僕らの拠点は山ですが、ご紹介する物件にはもちろん街なかの物件もあります。街なかでの生活を否定しているわけではないのです。自分たちを中心に考えた暮らし方や働き方の舞台が山なら、街は周囲を中心に考えた選択。かつての僕がそうであったように、街での暮らしや仕事は情報が入ってきやすく刺激があり、交通の便の良さなどから多くの人が街中の物件を求めるのは当然のことです。
2011年の九州新幹線全線開業によって急速に発展しつつある鹿児島中央駅の周辺エリア。駅前には大型ビルが建設され、一見すると5年前とはまったく違う街並みが広がっています。
しかしながら僕らがここに注目する理由はこの目まぐるしい近代化にはありません。
面白いのは、高層ビルのすぐ隣に昔ながらの朝市や顔の見える商売を営む魚屋や果物屋などがたくましく営業していること。昔ながらのさつまあげ店の奥にある座敷のこたつで夕飯を食べている家族の様子が路地から見えたときには、「ここは昭和か!?」と大きな衝撃を受けました。
急速に新しいものに転換しているエリアでありながら、彼らはそれに乗り遅れているわけではなく、自分たちのスタイルで生活を営んでいるのです。そのバイタリティーには感じ入ってしまいます。まるで目で見て触れられる歴史年表のような街の様子は、このまま残って行ってほしいものです。
中央駅周辺エリアの物件は、新幹線開業で福岡や熊本からでも日帰りできるようになったことが影響してテナントの空きが目立ちます。
これを利用しない手はない。もともとテナントだったものをリノベーションして住居にするのも一つの方法でしょう。既存の住居についても、20㎡程度の部屋なら駅から徒歩5分の場所に4万円前後で見つけることが可能です。駐車場は少ないですが、JRやバス、市電など公共交通機関が整っているので車はあまり必要ないかもしれません。何よりここは鹿児島の新しい顔と昔ながらの顔が見える、歩いて楽しめる街。灰や雨が降った日は市電を使えば良いので、自転車が1台あれば十分です。レンタサイクルがさらに普及すればこの街の魅力もさらに増すと思います。
また、このエリアには「共研公園」があります。季節ごとに花を咲かせる草木が植えられた、広場とテニスコートのある大きな公園です。
朝市の保存のために、朝市と連動したファーマーズマーケットが開かれると面白くなりそう。
力強く商売を続ける先輩たちのパワーに刺激をもらいながら、新しい知恵やアイデアを呼び起こし、実現させることのできる基盤がここにはあります。
山と街、それぞれに心ひかれる暮らしの形があります。あなたならどちらを選びますか?